旧丸木商店店蔵~江戸の町屋の保全と活用の取り組み~
● よみがえる江戸の空間
仙台市若林区南材木町にある旧丸木商店は、旧奥州街道がにぎやかだったころから昭和まで薬店を営んでいた、仙台市内に残る町屋では最も古いと思われる店蔵です。創建は天明元年(1781年)と伝えられており、現在杜の都景観重要建造物等指定建造物に指定されています。
この店蔵は、外壁は漆喰(しっくい)塗り鼠(なまこ)壁の土蔵造りで、道路に面した2階の虫籠(むしこ)窓には防火の役目を果たす土扉(どひ)が付いています。屋根は、現在は桟(さん)瓦葺きになっていますが、かつては土蔵屋根でした。1階の店は土間になっており、広い板の間があった痕跡があり、かつて道路の境だった柱の列には横に落とし込む雨戸を使用していた溝の痕跡もあります。1階店の天井は、2階の床板がそのまま天井になっている大和天井で、梁が三尺間隔であらわれています。建物平面はL字型をしており、2階の小屋梁が複雑に掛かっていて見応えがあります。2階の床には滑車で荷物を上げ下げした荷降ろし開口があり、引き違いの格子戸がはまっています。また、座敷の押入れの板壁には奉公人のいたずら書きが残り、活気のあった往時を愉快に想像させます。
2005年、小屋梁と屋根が傷んでいたため、修繕工事が行われました。そのおりに、清掃と内部の修繕のワークショップをやろうということになり、小学生10名と、所有者の佐藤三生さんのご家族をはじめ大人たち15名ほどが集まりました。まずは大掃除。ほうきや雑巾で積年の塵を払い落とすことからはじまりましたが、何段にも重なる梁の上からもうもうという煙状のほこりが部屋中を舞い、人の姿もみえなくなるほど。掃除を終えると、今度は2階の内部土壁に中塗りをかけ、修繕で取り換えた真新しい小屋梁に柿渋を塗り重ねました。その後、畳の交換とふすまの修繕を行い、江戸の空間は昔の輝きを取り戻しました。
修復された店蔵では、さっそく「奥州街道街並みテラス」(主催:仙台市街並みデザイン課)と、堤人形に絵付けをする「こども焼物教室」が開かれ、大勢の市民と子供たちで賑わいました。
こての使い方を教えてもらう
一列になって土壁塗り
オープンカフェと琵琶の演奏会を開催
2005年「奥州街道街並みテラス」
旧丸木商店の歴史と修復についてお話を聞く小学生
このあと、来年の干支「いぬ」の堤人形に絵付けをしました。指導は佐藤吉夫師匠(左端)です
2005年「こども焼物教室」
2005年の修復から5年が経過した2010年、白壁は汚れが目立つようになり、内部もほこりが溜まっていました。そこで、昔の人の掃除の手法で、自然材料でできた道具を使いながら店蔵を掃除をするワークショップを行うことになりました。子供11名が参加し、2チームに分かれて開始。蔵の中を掃除するチームは、ぬれ新聞紙を使ってほこりや汚れをとりました。蔵の外を掃除するチームは、この掃除のために新しく作った “笹ぼうき”を使って、しっくい壁となまこ壁のすすやくもの巣を払いました。
その後、全員2階に集合、板の間、柱、梁などの木部を、ぬか袋でみがきました。同時に、2階床の荷下ろし開口の周りに新しく取り付けられた木製の手すりに、墨汁を混ぜた柿渋を塗る作業も行いました。
ぬれ新聞紙を固く絞り、ちぎって部屋のなかに撒き、ほうきで掃いてきれいにしました
2005年「昔の蔵をきれいにしよう!
笹ぼうきですす払い
2005年「昔の蔵をきれいにしよう!」
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昔の蔵をデザインしよう
旧丸木商店の店蔵は、東日本大震災によって白壁がひび割れて一部は崩落、建物も傾き、所有者の佐藤三生さんが取り壊すことも考えるほどのダメージを受けました。
それでも佐藤さんは、230年間も生き続けて南材木町を見守ってきたこの蔵を後世に残すのが自分たちの役割であると修復を決意されました。
この修復では、シャッターになっていた1階の南ファサードを構造補強も兼ねた格子壁に変更することになり、その格子の一つひとつに南材木町小3年生がデザインした“紋”をあしらうことになりました。
<南材木町小3年「知りたい南材~昔の蔵をデザインしよう~」>
佐藤三生さんから、蔵の格子壁の“紋”をデザインしてね、とお願いされました
デザインのウオーミングアップ
「シャボン玉や風船の動きを描いてみよう」
(左)対称、らせん、繰り返しなどのデザインパターンを黒い紙を使って練習
(右)昔の蔵や街並みをイメージしながら、デザインパターンも使って“紋”をデザインしました
子供たちのデザインによる“紋”は、2012年10月に格子壁を飾り、蔵の復活に花を添えました
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昔の蔵の復活を祝う
<南材木町小4年「丸木さんの蔵の完成をお祝いしよう」>
2012年秋、子供たちが描いた紋が格子壁にはめこまれました。4年生になった子供たちは、店蔵の修復が無事終わったことを祝うとともに、蔵を探検し学ぶために、旧丸木商店を訪ねました。格子壁の前では、自分の紋を見つけると、うれしそうに見入っていました。
室内では、佐藤三生さんから、「丸木商店は昔、材木を扱う官札を持っていて、その後薬店を営むようになってからも丸木の屋号を使い続けています」というお話を聞くことができました。その後、蔵の内部を見学。2階床の穴の用途(荷下ろし用)、2階の土扉の役割(防火用)などのクイズに挑戦。また、職人さんが描いたという押入れの中の鬼の落書きを発見して歓声をあげていました。
「建物の完成おめでとうございます。これからもがんばってください。私たちも応援します」と佐藤さんに挨拶
子供たちの感想(抜粋)
・この間は、旧丸木商店、おもやを見せていただき本当にありがとうございます。もん作りという貴重な体験もさせていただきとてもうれしいです。きれいな丸木商店を後世にのこしていきたいです。
・かっしゃをはじめていじってみてとてもふしぎだったけど、いわいるエレベーターみたいな物かなと思います。いまの便利な物もいいけれど昔の電気を使わずお金もかからないのでそっちもいいと思います。それに昔の人は、いまにはないくふうをしているのでげんだいの人より頭いいと思います。
・昔の人のちえがこめられている家は、今は数少ないと思います。すごくおどろいたことは、家の中に曲がっている木(小屋梁)があり、それで家を支えていたことです。あと、きれいに紋をかざってくださってありがとうございます。これからも旧丸木商店が大事に過ごすことを見守っていきたいです。
<蔵を愛で、蔵でたのしむ>
旧丸木商店では、地域の方々をはじめ市民の方々に、復活した店蔵をみていただくとともに、音楽や伝統文化にも親しんでいただこうと、コンサートや堤人形の絵付け体験ワークショップを行いました。
コンサートは、鈴木健治さんによる「ルネサンスリュートと19世紀ギターの調べ」(2012年)、柴生田桂子さんと吉田和久さんによる「ヴァイオリンとヴィオラの夕べ」(2013年)、ギターとボーカルのデュオIZUMI&JINさんによる、「蔵で楽しむミニコンサート」(2015年)と「復興記念夕涼み蔵でコンサート」(2016年)です。いずれも用意した40席ほどが満席になるほどの盛況でした。お客様は、日常では味わえない空間に響く、弦楽器の音色やボサノバの歌声にうっとりとされていました。コンサートがはじまる前には、南材木町小の3年生がデザインした紋がはめこまれた格子壁など蔵の外観を見学。小屋梁や荷下ろし開口、修復したふすまなど蔵の内部も見て、手の込んだ造りに感心しきりでした。
ボサノバとジャズでひなまつりを祝う
2015年「蔵で楽しむミニコンサート」
店蔵は芝居小屋のような雰囲気に
2015年「蔵で楽しむミニコンサート」
他団体によるイベントも開催され、大勢の人で賑わいました
2006年~2019年粋々まちなかプロジェクト主催
「うれし楽し蔵deひなまつり」
2019年と2021年には、2005年以来となる堤人形の絵付けワークショップを開催しました。堤人形作家の佐藤明彦師匠から絵筆の使い方や彩色の仕方を指導してもらいました。
2019年は、「子(ね)」の干支人形、2021年は、「寅(とら)」の干支人形の絵付けです。
寅は、真っ白い胡粉が塗られている人形全体を黄色で塗りつぶしたあと、黒色でダイナミックな模様を描きます。その後、朱色で口・耳・鼻、白色で目やひげと描き、最後に目と尻尾を黒色で描くと個性あふれる寅が完成しました。
佐藤明彦師匠(左奥)の指導で、とうがらしに乗ったネズミの干支人形に絵付けをする参加者
2019年「蔵で堤人形絵付け」わーくしょっぷ
「ウオー」と勢ぞろいする寅たち
2021年「蔵で堤人形絵付け」わーくしょっぷ